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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

11/28号

『特集:グローバリズムとPCへの反乱』
  1. 2016年もあと1カ月少々。2016年の世界の流行語大賞は「グローバリズムとPCへの反乱」に決定のようだ。まずグローバリズムとは「ヒトカネモノが自由に国境を越える」。そしてPCとは(日本で汎用されているパーソナル・コンピュータのことではなく)「ポリティカリー・コレクト=ありとあらゆる差別や偏見をなくすること」。
  2. 6月の英国のEU離脱決定、そして11月の米大統領選挙でトランプ勝利という歴史的な“番狂わせ”は、一見無関係に見えて本質的にはほとんど同一のものであった。日本を含めて世界中の有識者やメディアは、ほぼ一致して英国のEU残留と、米大統領選挙でのトランプ敗北を固く信じ、またそうなることを強く望んでいた。
  3. ところが予想外の展開になってメディアは、EU離脱について「理性が感情に負けた」「ポピュリズム(大衆迎合主義)の怖さ」「今となって後悔する国民」などと表現し、挙句「扇動され踊らされた低学歴労働者による無責任な愚挙」「民主主義の危機」と嘆息した。トランプ勝利後もメディアは、ほとんど同じ論評を繰り返した。
  4. 考えてみればここ30年、アメリカが先導し、世界が追随したグローバリズムによって、世界各国で所得格差が急拡大し、中産階級がやせ細り、国民が持てる者と持たざる者とに二分された。結局、アメリカ型金融資本主義により一蓮托生となった世界経済は、ギリシャ程度の小国の経済状況にさえ一喜一憂するという脆弱な体質になった。
  5. またPCという「清く、正しく、美しく」の理想論的な合言葉により、誰もが本音でモノを言えなくなった。PCに抵触したとメディアが判断すれば、即刻社会的な制裁を受けざるをえなかったからである。
  6. この閉塞感とグローバリズムのもたらした惨状に敢然と立ち向かったのが移民排斥と自由貿易協定破棄を掲げたトランプであり、移民とEUのグロバーリズムに反逆した英国民だった。結局、今回の米大統領選挙でのトランプ勝利に対する「なぜだ??」との疑問に対する答えが「グローバリズムとPCへの反乱」だったのである。
  7. こうした一連の考え方は認めるとして、中産階級の怒りが収まった後、具体的に現世とどう対応していくかは別問題である。トランプ勝利の後の「ドル1強マネー集中」は異常である。きっかけとなったのは米議会選挙で共和党が多数派を維持し、大統領と議会多数派が食い違う「ねじれ」が解けたからである。トランプの大型減税やインフラ投資が現実味を帯びる。移民拒否などの極端な政策は、与党・共和党が歯止めをかける。ウォール街はそんな“いいとこ取り”のシナリオに乗ったのである。
  8. 「欲しいものがいつも手入るとは限らない。けどやってみると、たまには見つかるかもしれない」。トランプ勝利宣言の後、会場に流れた英ロックバンド、ローリング・ストーンズの曲の一節である。世界は今、21世紀初頭の極めて難しい局面にいる。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
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TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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