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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

9/20号

『特集:北朝鮮の行く末を考える』
  1. 今年の夏も暑かった。リオ五輪の熱気も残り、寝苦しい夜が続いた。何かガツンとした読み物はないかと探した。結果出会ったのが「満洲国演義」だった。昨年4月に亡くなった船戸与一氏の原稿用紙7500枚、文庫本にして600ページ×9冊の遺作だった。
  2. 長州藩士を祖父に持つ敷島家の四兄弟+αを主人公に設定し、それぞれに役割を担わせる。まず長男の敷島太郎。東大法学部卒の外交官で奉天領事館の参事官。次男の次郎。18歳で日本を飛び出し馬賊の頭目として満州を放浪。三男の三郎。陸軍士官学校出身の関東軍将校。四男の四郎。無政府主義を信奉する早稲田の学生。そして間垣徳蔵。四兄弟の遠縁で関東軍特務少佐。陰の主役。
  3. 船戸氏は「現実を動かさない」とする自己規定を厳格に守り、夥しい実在人物を登場させる。結果、「満洲国演義」という小説ではなく「(克明な)満州国史」に仕上がっている。1980年代に勃興した冒険小説の中心にいた作家であったが故の、戦争特有の殺戮場面や下士官の集団婦女暴行シーンのリアルな描写も、作品を重厚なものにしている。
  4. 明治維新という内戦に近い試練を乗り越え、国民国家の道を歩き始めた日本は、日清・日露という対外戦争に勝利し、民族国家としての自信を深めていく。たがそれは八紘一宇という言葉で表現されるように、理念が純粋化されるにつれ観念的となり、結果としてアジアの覇権という形にならざるをえなかった。結局理念の極致が満州国建国だった。
  5. 登場人物にゲーテの「ファウスト」から「国家を創り上げるのは男の最高の浪漫だ」と述べさせる。軍人たちの浪漫=妄想が満州事変、支那事変、太平洋戦争と拡大、果ては二発の原爆投下とソ連参戦による満州国の滅亡と無条件降伏。満洲国は1932年3月1日に誕生し、1945年8月17日に消滅。13年5カ月。植民地経営の経験不足と掲げた理想と現実の乖離。国家と個人、日本とは何か、日本人とは何かを考えさせられた。
  6. こうした大作を読み終えた直後に、北朝鮮の核弾頭の爆発実験成功のニュースに接する。核やミサイルを強行する北朝鮮を、各国メディアは「暴挙」や「暴走」といった言葉で表現する。北朝鮮はどんなに厳しい制裁を浴びても、計画に沿って核武装するだろう。はったりではなく、本気でそう考え行動するだろう。これが順当な考え方であろう。
  7. 北朝鮮の場合、原因はある程度明確になっている。国境が直線で引かれている場合に紛争は起こり易い。それは民族のありようを無視して、統治する国の都合で直線が引かれるからである。国境をまたいで同じ部族が存在する、二重国家になっている。結果的に民族意識が政治的な思想に昇華され、権力との抗争を必然的にさせるからである。
  8. ここ百十数年の日本の歴史を要約すると、民族国家としての勃興期から伸長期を経て、昭和20年に頂点を迎え、リセットされ現在に至っている。国家の動向を予測するのは簡単ではない。ただこれまでの歴史を考えれば北朝鮮のリセットの時期は近いのだろう。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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