■今週の市場展望
著者:青柳孝直
6/13号
『特集:カシアス・クレイ。あなたは強い米国の象徴だった…』
- 6月第1週末、突然のタイミングで訃報が飛び込んだ。「モハメド・アリ死去」。享年74。またひとつの時代が終わったような気がした。
- 戦後の日本が大きく転換するのは1964年の東京五輪からだったように思う。TV文化が完全に定着したことが大きかった。それまで情報は、“聞く”というツールだけだったが、それから以降“目で確かめる”ことができるようになった。
- そして海外からの映像がライブで見られるようになった。米国発の最初のライブ映像が1963年11月22日の「J.Fケネディ大統領の暗殺」だったのは皮肉と言えば皮肉だった。だが世界がごくごく身近なものになったのである。
- 1960年代の英雄と言えば、上記J.Fケネディ、1966年6月29日に来日するビートルズ、そしてモハメド・アリだったと思う。イスラム教への改宗と共にカシアス・クレイという本名を捨てる格好となったが、1960年ローマ五輪のボクシングライトヘビー級で金メダルを獲得したカシアス・クレイの方が自分にとっては馴染が深い。
- モハメド・アリのボクサーとしての評価は勿論高い。プロデビューした時の大統領はアイゼンハワー。そこからレーガンまで7人の大統領の任期を通して戦い抜き、通算3度の王座奪取と19度の防衛を成し遂げた。
- ボクシングが15回戦制だった時代の、ヘビー級王者が「王の中の王」であった時代に「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と自賛したように、ボクシングのテッペンの無差別級に、美しさとスピードをもたらした。
- 1960年代初めの日本のボクシングと言えば、ファイテング原田のフライ級、バンタム級の二階級制覇が全てだった。フライ=ハエ、バンタム=ちゃぼ、フェザー=羽に揶揄される軽量級の世界に見慣れた自分にとって、ヘビー級の、牛をも倒すドスンと音のするようなパンチに、全く違う世界を見せられたような気がした。
- それはビートルズ・サウンドで、演歌中心の日本の歌謡曲とも、ジャズっぽいアメリカンポップスとは全く違う世界を見せられたのと同じ感覚だった。やっぱり世界は凄い、世界は広いんだ…と思わせた。
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モハメド・アリは「ベトコンと戦う理由がない」として徴兵を拒否、67年に王座を奪われ、リングからも追放される。ボクサーの旬の時期を法廷闘争に費やし4年弱のブランクをつくる。しかし国家や世論を敵に回しても自由を求めた闘いに信念を貫いて勝利し、キング牧師と並んで米国の黒人で最も大きな影響力を持つカリスマとなった。
試合前の相手選手への余りに横柄な“口撃”が話題となり、その人間性を疑う向きがあるにはあった。ただ根幹には昨今のセレブ化したスター選手にはない“やさしさ”があった。1996年のアトランタ五輪の聖火点火の姿が最後になった。何か寂しい気がする。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
連絡先:
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書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円