■今週の市場展望
著者:青柳孝直事務所
12/17号
『特集:YKKの受難―欧州連合(EU)の厳罰主義と日本企業―』
- 自分の生れた富山県には、名前を言って分かる全国的な有名企業は極端に少ない。北陸銀行、北陸電力があって、(トンネル工事で名を馳せた)佐藤工業、不二越、そしてYKKあたりまでで、十指に余るといった状況である。
- ところでYKKのネーミングは、吉田工業株式会社の英語の頭文字を取っただけのもの。「石橋産業=ブリッジ・ストン=ブリジストン」と同様な感覚の名前の付け方である。自分の小学生時代、地元では“吉田チャック”と言われた家内工業の零細企業だった。要は「YKKも、元を質せば漁師の奥さん連中の内職だった」ということである。
- ところがそのYKKは、今やファスナーとサッシの二本柱を擁し、世界74ヶ国に事業を展開する、年間総売り上げ6,500億円超のグローバル企業となった。黒部ダムで有名な黒部市は吉田一族の出身地でもあり、当地には巨大な工場がドカンとばかり置かれているが、今や富山県の企業と言い難い。
- そのYKKが、ファスナーなどで国際的な価格カルテルを結んでいたとして、欧州連合(EU)の欧州委員会から巨額の制裁金支払を命じられている。その額1億5,025万ユーロ。日本円にして約243億円。欧州委員会が日本関連企業に科した制裁金としては、日本板硝子の英子会社ピルキントンに対する約1億4千万ユーロを上回り過去最高。
- 欧州委員会が主にカルテルに関与していたとするのは、YKKの独子会社YKKシュトッコ・ファスナーズ。YKKは94年に資本参加し、97年に全額子会社とした。欧州委員会に拠れば、カルテルはYKKが資本参加する以前に始まり、完全子会社化した後も4年程度続いたとしている。
- しかし同子会社は欧州だけで事業展開をしており、YKK側はカルテル行為があったとしても欧州市場に限定されていたとし、国際的なカルテルを結んでいたとして巨額な巨額の制裁金を要求する欧州委員会を提訴する構えである。
- 日本ではカルテルがあった場合、対象分野の売上高が課徴金の基準となるが、EUでは対象企業の世界総売上高の10%が制裁金の上限とされ、結果的に240億円超の制裁金となった模様。これはYKKの07年3月期の純利益240億円とほぼ同額。
- 欧州委員会では巨額の制裁金を独禁法違反の抑止力と位置付けている。従って欧州市場の進出する日本企業にとって、欧州委員会の厳罰主義は脅威には違いない。こうした価格カルテルの摘発を強めるEUに対しては、三菱電機、日立製作所なども提訴に踏切っており、同様の動きが徐々に広がり始めている。
- 今や米国に代り世界の中心になり始めている欧州だが、文化の違い、考え方の違いが徐々に明確になってきている。米国ドルからユーロ中心の世界になりつつあるとは言え、輸出立国・日本も、グローバルな時代を生きるのは簡単ではないようである。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
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書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円