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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

9/08号

『特集:代ゼミの縮小撤退と時代の背景』
  1. 1970~80年代の夏の風物詩として、大手予備校の夏期講習の風景があった。「受験生に夏休みはない」「猛暑を乗り切った者のみに勝利がある」などと、まことに勇ましい掛け声の元、日本全国から東京の有名予備校に通うのが“勝利の方程式”だった。全国津々浦々の若者(受験生)は、こうした受験戦争を心ならずも受け入れるしかなかった。
  2. 当時の大手予備校御三家としては「代々木ゼミナール」「駿台予備校」「河合塾」。その中でも代々木ゼミナール、通称代ゼミは、でかい教室に大量の受験生を詰め込むマスプロ方式で、夏の風物詩としては格好の風景を提供した。酷暑の中で受験勉強に励む姿は、その本心はどうあれ、確かに日本の未来の背負うごとく“たくましく”映った。
  3. この8月、そのマスプロ予備校の代名詞、代ゼミ縮小のニュースが流れた。全国に27か所ある校舎を7か所に減らすという。そして20か所は2015年以降、生徒の募集を止めるという。ある種衝撃的だった。わが世の春を謳歌したあの代ゼミが…
  4. 確かに大学受験を巡る環境は激変している。一つ目は浪人生の減少と現役志向の高まり。少子化時代を迎え、入学希望者より募集枠が多い「大学全入時代」となり、90年代前半には20万人近くいた浪人生は今や8万人で、受験人口の1割強。
  5. 二つ目には国立や理系学部を選ぶ受験生の増加。浪人生の現象による予備校の苦しさは他の予備校と条件は同じだが、私立文系を得意としてきた代ゼミにとって、現状の理系主役の流れは“大型台風並みの”逆風だった。
  6. 三つ目にはネット配信授業の恒常化。個室のようなブース、あるいは自宅の勉強部屋で、ネット配信で授業を受けるスタイルが恒常化した。受講生は時間に縛られず、何度も講義を受けることが可能になった。もっと言えば、予備校に通うのに東京で住まいする必要性もなくなった。これは“ある種の革命”だった。
  7. かくして1000人以上を収容する大型教室で受講するスタイルは完全に姿を消した。代ゼミがイメージする世界ではなくなったのである。最近では「子供を小学生のうちから囲い込む“青田買い”方式」が盛んに採られているが、今後の行方は未知数である。
  8. ここで考えなければならないのは、世の中の大きな動きである。最近の大学、特に従来の文系学部のレベル低下は著しく、グローバル化した世の中の動きについていっていない。不変的な学問=例えば法学部などは何とか通用するものの、可変的な学問=例えば経済学部などで教える学問は、世離れしたアナログ的な部分は否めない。
  9. 21世紀は、「どこの大学を出たか」ではなく、「どこの大学院で何を学んだか」が大きなテーマになり始めている。こうして考えれば、「大学に入るための予備校」の存在は、以降も益々存在価値が薄くなるのは必至。代ゼミという単語を聞くと、「(南こうせつ)神田川」が同時に流れてくる。多分、今となってはノスタルジックな世界なのだろう。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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