■今週の市場展望
著者:青柳孝直
8/11号
『インド最大の財閥・タタ・グループの研究』
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日経新聞最終ページに掲載「私の履歴書」の7月版は、インド・タタ・グループの5代目会長のラタン・タタ氏のものだった。
1ヶ月、興味深く読ませてもらった。
総じて後進国の範疇に入るインドの一企業・タタ・グループが、如何にしてその名を世界に轟かすに至ったのか、まずは興味津津だった。 -
タタ・グループの創業は1868年。
日本の元号では明治元年。
150年近い歴史があることになる。
現在では製鉄・自動車・電力・IT・化学・通信・食品・ホテルなど傘下企業は100社超。売上高は1000億㌦(約10兆円)。従業員は50万人超。 - タタ・グループという名が世界に注目され、知れ渡るのは、2007年の英蘭鉄鋼大手・コーラス(67億ポンド=約1兆1600億円)、および08年の英高級車「ジャガー・ランドローバー(JLR)」(23億㌦=約2350億円)の買収。インドの企業が名だたる世界の企業を買収したことで衝撃が走った。そして09年の10万ルピー(約17万円)の低価格車「ナノ」の発売も衝撃的だった。10万円台の乗用車???既存の常識を破るものだった。
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タタ一族は古代ペルシャのゾロアスター教徒の末裔。
イスラム教の隆盛に伴い、11世紀に祖国を追われた教徒の一部が、船に乗ってインド西部に辿りつき、やがて定住するようになった。
以降はペルシャを意味する「パルシー」と呼ばれるようになり、カースト制度に組み込まれることなく、自由な活動を許されてきた。
現在のインドに約6万人のパルシーが存在すると言われ、強固な共同体を形成している。 -
タタ・グループにはユニークな数々の特徴がある。
まず汚職が横行するインド経済で賄賂の支払いを一切拒否してきたこと。
また政治献金は禁止、そして特定政党を支持しないことも規則で申し合わせている。 - そして何よりも特徴的なのは、グループ持ち株会社の株式をタタ一族の慈善団体が所有し、毎年その収益から巨額の配当を農村や貧困者、教育、医療、文化などに社会還元している点である。
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短期的な利益は追及せず、長期的な視点から社会全体の発展に寄与することが企業の存続につながると固く信じている。
インドという混合経済体制で息の長いビジネスをするために身に付けてきた知恵なのかもしれない。 -
タタ・グループと日本のつながりも古い。
1893年、創業者のジャムシェドジーが来日、東京で渋沢栄一と対面している。
会談の狙いは日印定期航路の開設だった。
当時世界有数の綿花産地だったインドは輸出航路を欧州勢に独占され高い運賃を課せられていた。
渋沢栄一はムンバイ・神戸間の定期航路を開設、欧州勢の運賃引き下げを導き出した。 -
30回の連載を読み返して感じることは、インドという「カースト制度を基本とする閉塞された世界で成功するのは並大抵ではなかった」という点である。
米コーネル大学建築科を卒業し、米国の生活からタタ・グループに入社する氏の経歴はやはり波乱万丈である。
今回の連載を読んで、インドという“不思議な国”が少し身近になった気がした。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
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書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円