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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

10/15号

『特集:作家・山崎豊子さんの死を悼む』
  1. 社会人になって購読し続けている週刊誌は「週刊文春」「週刊新潮」。月刊誌は「文藝春秋」。なぜその三種かと言えば、中身が濃く、連載小説に骨太のものが多かったからである。日本の最新鋭の作家が執筆している(と考えていた)。だから外せない…
  2. その週刊新潮8月29日付通巻2904号から山崎豊子作「約束の海」の連載が始まった。久し振りに「山崎豊子の世界」が始まる…至極楽しみにしていた。海上自衛隊の潜水艦に乗る主人公と、帝国海軍軍人として真珠湾で捕虜になったその父の、過酷で壮絶な人生の物語。読み始めて、いつもの重厚な山崎ワールドが広がっていた。
  3. 連載第6回が掲載の10月3日号が出た翌週初、30日(月)午後、「作家・山崎豊子死去、享年88歳」のニュースが流れた。聞けば、現在連載中の第一部全20回、約500枚に及ぶ原稿は仕上がっているという。ひたすら小説を書き続けて56年、「小説を書くこと以外に趣味はない」と公言する、一流作家の“業(ごう)”を垣間見た思いだった。
  4. 1957年(昭和32年)に「暖簾」を世に問うや、翌1958年「花のれん」で直木賞受賞という“華やかなデビュー”だった。週刊新潮・1959年(昭和34年)1月5日増大号から連載が開始された「ぼんち」と共に、大阪・船場・三部作として大評判を呼び、山崎豊子の職業作家としての地位を固めていった。
  5. 次いで1963年9月からサンデー毎日に連載が開始された(大学病院の権威主義を題材にした)「白い巨塔」、1970年3月から週刊新潮で開始された「華麗なる一族」、山崎豊子・戦争三部作と言われる「不毛地帯」(1973年)、「二つの祖国」(1980年6月)、「大地の子」(文藝春秋1987年6月)。
  6. 日本航空の内部を題材にした「沈まぬ太陽」(週刊新潮1995年1月)、そして2009年に出版された(外務省機密漏洩事件を題材にした)「運命の人」が事実上最後の大作となった。ザッと著作を並べてみたが、上記の大作の全て、それも複数回読み返している。
  7. 特にどれが印象的かと問われれば、「不毛地帯」。これは同郷の旧満州国・陸軍総参謀長・中佐で、伊藤忠商事・元会長・故瀬島龍三氏を題材にしたものだったからである。一度だけだが、瀬島氏本人との面会をさせてもらっていることもあって、内容がリアルだった。必然的に何回も読み返した。
  8. こうした一連の山崎作品に病みつきになるのは、毎日新聞出身で“取材の鬼”と化する山崎さんが、その綿密な取材を通して、人間の醜い欲望や冷酷さを容赦なく描いているからである。その点から言えば、戦後最大の社会派作家と言われた故松本清張氏の著作に味付けや書き方が似ている気がする。
  9. 10月10日、いつものように週刊新潮が発売され、連載第8回が掲載されている。残るはあと12回…全部読みたい…本当に残念な気持ちでいる。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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