■今週の市場展望
著者:青柳孝直
9/24号
『特集:ドラマ・半沢直樹が描く「日本の銀行」』
- TBSの毎週日曜日午後9時からのドラマ「半沢直樹」が視聴率30%を超えるヒット作となっている。主役の半沢直樹を演じるのは怪優・堺雅人。あのニヒルな目が内容にマッチしている。確かに最近にないシリアスな大人のドラマではある。
- 原作は直木賞作家の池井戸潤の「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」。舞台は三菱東京UFJ銀行をイメージさせるが、全体的に関西風のしつこい味付けで、三井住友銀行をも連想させる。
- 内容が余りにリアルで、銀行界ならずとも共感を呼んでいるが、ではあのドラマの内容は本当なのか。銀行経験者から言えば、内容は本当である。顧客殺しの手法、金融庁検査の詳細、内部抗争の凄さ、えげつない同志の足の引っ張り合い、減点主義の出世競争、明確に確立された派閥等、銀行経験者でなければ書けない内容が連続する。
- 原作では、現在の銀行の貸出に関して以下のように言う。「晴天に傘を差し出し、雨天に取り上げる」「融資の要諦は回収にあり」「カネとは裕福な者に貸し、貧乏な者には貸さないのが鉄則」。けだし本音ではある。
- かつて護送船団方式で守られた銀行は、困ったらお上が助けてくれた。だから義理人情優先モードで中小零細企業に融資し、貸し倒れの山を築いたとしても安心していられた。そうした銀行の本質が変わり始めたのはいつの頃からだったろうか。
- それは1973年の外国為替市場誕生の時からだったと思う。相場という概念が入ってきた時、従来の“守り”の銀行から変貌せざるを得なかった。そして外国為替を発端とするグローバリゼーションで「銀行が倒産する」ことを危惧せざるを得なくなった。「銀行も営利企業である」ことを実感し始めたのである。
- こうした時代背景の中で「基本は性善説。やられたら倍返し」の半沢直樹主義は語られていく。作者・池井戸潤が描きたかったのは「行員を幸せにできない銀行という組織」であり、「真っ当な人間をも歪めてしまう銀行という組織」の様子だった。
- 確かに今の世の中、銀行という組織ばかりがおかしいのではない。そして自分の職場に100パーセント満足している人間などいない。どの組織にも理不尽さや歪みは存在する。ただ「銀行の常識は非常識」と言われるほど、現在の銀行は追い詰められ、ある種狂気に似た雰囲気が満ち溢れているように見える。
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IT時代が進捗し、ネット銀行が大々的に進出し、従来の銀行のあるべき姿は変わり始めている。「財産は人」と言ってはばからなかった従来の銀行の姿は既にない。そして半沢直樹のようなスーパースターは望むべくもない。
所詮は絵空事の、あくまでドラマではある。だがドラマ・半沢直樹は問いかける。銀行という(守り中心の、何らも造らない)営利企業に明日はあるのかと。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
連絡先:
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書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円