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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

8/12号

『特集:「預金量5兆円が安全圏」という“お題目”』
  1. 8月6日の日経新聞は、東京都民銀行と八千代銀行の経営統合をトップ記事で伝えた。東京都民銀行は戦後の復興期の1951年、中小企業向け資金供給のため、東京都や経済界の支援で設立された。75年に東証一部上場。預金残高は2兆3千億円。貸出残高1兆7800億円。従業員数は1600人。店舗数は77。
  2. 八千代銀行は1991年、信用金庫から普通銀行に転換。2000年に経営破綻した旧国民銀行の営業を譲り受け現在に至る。07年に東証一部上場。預金残高は2兆500億円。貸出残高は1兆3700億円。従業員は1600人。店舗数は84。
  3. 誠に残念な話だが、首都・東京一円をその営業圏とする東京都民銀行も八千代銀行も、そんな銀行あったかいな、ってな具合で、存在感は全く薄い。その存在感の薄い銀行が統合しようがしまいが、全く関係ない、勝手にどうぞ、といったところが本音ではある。
  4. 地方銀行は数が多く、再編が必要だと言われて久しい。バブル崩壊後、大手銀行は集約が進んだが、地銀は遅々として進まない。第二地銀の数こそ1989年末の68から41に減ったが、地銀は64から変わっていない。(第一地銀、第二地銀合計で105行となる)
  5. これまでに広域再編が実現した例は、ふくおかファイナンシャルグループ(FG)や、ほくほくFGなど一部に限られている。その他、フィデアHD(北都銀行・庄内銀行)、じもとHD(きらやか銀行・仙台銀行)トモニHD(香川銀行、徳島銀行)山口FG(山口銀行・もみじ銀行・北九州銀行)があるが、狭い地域での経営統合である。
  6. 一連の地銀に与えられた最大の環境の変化は、ここ10年、新幹線を中心とした交通網の整備によって、地方に拠点を置く必要性がなくなってきている点である。新幹線整備はトンネル現象を起こし、地域経済そのものに資金需要が減退している。
  7. そして地方銀行の最大のネックは、IT時代に沿った近代金融の根幹スキムである「金融工学(ファイナンシャル・エンジニアリング」の技術取得を放棄している点である。為替取引をしていない(為替市場に参入できない)のに外貨預金を売る、株式取引をしていないに投資信託を売るといった等の、末転倒の事態を引き起こしている。
  8. 21世紀に入って地銀は、黙っていても預金だけは集まるといった幸運があった。”地元の盟主”と標榜するプライドが保たれた要因だったが、ソニー銀行やイオン銀行等の異業種銀行の進出で、その牙城も徐々に崩され始めている。
  9. 誰が言い出したのかは不明だが、地銀間では「預金量5兆円を超えなければ、システム投資などを含めた負担に耐えられない」という“お題目”が先行、規模の拡大と称して(双方が傷つかない、安直な)提携先を見つけのるに必死になっている。ただ「本業縮小」「国債頼みに限界」というテーマの中で、「守り」の地銀の生き残りは難しい。世界の潮流を眺めれば、つまるところ「地銀の使命は終わった」と言うしかない。

    8月19日の『今週の市場展望』はお休みさせていただきます。

    予めご了承下さい。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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