■今週の市場展望
著者:青柳孝直
4/01号
『特集:“キプロス”ってどんな国??』
- ここ2週間、金融界では“キプロス”という聞き慣れない単語が飛び交っている。キプロス??それは地中海東部に位置する島国。面積は9251平方キロメートル(四国の約半分)。人口は(2012年の推定で)113万人。主要産業は観光と金融。
- そのユーロ圏の経済規模の0.2%しかない小国が、世界の金融市場を動揺させた裏にはロシアの影があった。キプロスの銀行の預金の3分の1がロシアの資金であり、キプロスは表面的にはオフショアセンターと謳ってはいるものの、その実は「ロシア専用のマネーロンダリングの国」という位置付けだった。
- そのキプロスも、ギリシャ債務危機のあおりで銀行の不良債権が急増、財政赤字と銀行資本注入のための支援が必要となっていた。その額、キプロスの国内総生産(GDP)のに匹敵する170億ユーロ(約2兆円)。
- 3月15日夕方から16日未明のユーロ圏財務相会合で打ち出された条件は「預金課税」だった。預金額に応じて7~10%程度の負担を幅広い預金者に求めるもの。ただキプロスでは、今回の金融危機はギリシャの“もらい事故”という感情が先立っていた。
- こうした国民感情の中で、小口の預金者までも負担の対象なるというのは寝耳に水の話には違いなかった。結果的に国民の怒りが爆発。発表直後から銀行のATMに行列ができ、いわゆる取り付け騒ぎとなった。3月19日には議会が課税措置に必要な法案を採決したが、「賛成ゼロ」で否決される事態に陥った。そうした一連のドタバタが世界中にTV放映され、“ユーロ危機の再来”として世界各地に伝えられた。
- ユーロ圏の雄・ドイツは、キプロスの大口預金者はロシア・英国・欧州等の富裕層であり、そうした大口預金の4割が資金洗浄(マネーロンダリング)に関わっているとして、安易な救済には難色を示している。かくして金融支援には厳しい条件、結局は“闇の投資家”の排除を持ち出したことになる。
- 今のところ、キプロス第一の大銀行であるキプロス銀行と、第二位のキプロス・ポピュラー(ライキ)銀行の10万ユーロを超える高額預金について、最大40%カットする条件で100億ユーロを支援する方向で妥結する気配となっている。
- 今回のキプロス問題が起きて、多くの方々から「キプロスとは何なのか」「ユーロは大丈夫なのか」という質問を受けた。大丈夫も何も、キプロス自体が“新種の国”であり、その所在さえ不確かであった。ユーロ経済規模の0.2%しかない小国の問題がユーロ全体に波及することは考え難く、「ほっときゃいいでしょ」と答えるしかなかった。
- 短期データ専門のPCベースの市場ではユーロが売られることになったが、一時的なものと思う。日本円にして1兆2千億円程度でユーロ全体が揺らぐか否か。バックにはロシアがいるにしても、神経質に過ぎると思う。一過性の“かすり傷”であろう。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。
連絡先:
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FAX:03-5573-4857
書籍紹介
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ISBN:978-4-86280-068-8
定価:1,365円
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ISBN:4-89346-913-4
定価:2,520円