• ホーム
  • コラム
  • 3/21号 特集:「金融業の聖域」の消滅と文系金融の終焉

コラム

コラム一覧へ

■今週の市場展望

著者:青柳孝直

3/21号

『特集:「金融業の聖域」の消滅と文系金融の終焉』
  1. 人口減で地域経済が縮む中で、地銀の再編が相次いでいる。と言っても最近では、近場の銀行だけでなく“飛び地”の吸収合併もあり、また横文字のネーミングをつけることが多いこともあって、“どことどこが合併してどうなった”ということは全く興味を持たなくなっている。銀行抜き、ましてや地銀抜きの生活が普通だからである。
  2. 最近金融庁は、地銀に対し運用部門に焦点を当てた特別検査を実施している。マイナス金利政策の導入で投資し難くなった国債に代わり、少しでも高い利回りを求め、外債や複雑な仕組みの運用商品の投資を増大させたからである。そして昨今の米金利上昇で、多額の含み損を抱えたり、損失を計上している地銀が多いのが現実だからである。
  3. また一方で、保険商品の銀行窓販が急減も目立つ。2016年度の販売額は前年同期比4割減で、09年以来の低水準になる見通し。金融庁が窓販の商慣行に厳しい視線を向け始めたことも響いている。全面解禁から今年で10年。銀行窓販は曲がり角である。
  4. こうした環境の中で、監督官庁たる金融庁の言い分。「再編はあくまで経営手段であり、再編を促しているわけではない」「ただ再編でムダなコストを削って経営を合理化すれば、人口減で地方経済が疲弊しても銀行が仲介機能を発揮し易い」「再編で生じた資金や人材、情報などの経営資源を地域経済に振り向けられる」
  5. 建前はともかく、金融庁の本音は以下のようになろう。「今後、能力のない銀行は生き残れない。特に地銀の生き残りは厳しい」「少数精鋭体制にすることが急務。更なる吸収合併を勧奨する」「不要な人材は出向させ、コスト削減・体質改善を指導していく」
  6. 金融とIT(情報技術)が融合した「フィンテックの時代」を迎え、銀行業という業態自体が大きな曲がり角に差し掛かっている。膨大な顧客データ、本人確認などの技術のノウハウ、社会的な信用力、優秀な人材力など、銀行が抱えていた(orあったはずの)従来の銀行の武器を、守りでなく、攻めに使えるか。
  7. だが現状は、銀行の主業務の一つであった決済業務さえ、必ずしも銀行である必要がなくなり始めている。モバイル市場が急拡大し、電子商取引のアリババやテンセントが急拡大する時代となった。モノやサービスと結んだ自動決済や、顧客データを使った新たなビジネスを切り拓く能力・資本力が、今の銀行、特に地銀にあるとは思えない。
  8. 団塊の世代は「文系」「理系」に大別され、またその主たる就職先は文系は金融、理系はモノ作りと進んでいった。当時の文系・金融に「何かを創る」との発想は皆無だった。「変化するもの」を避け、「与えられた規則を完璧に習得し、準拠するための知識を会得する」ことが最優先された。株式・為替相場などの基本的な相場さえも忌避された。
  9. 地銀レベルでは未だに団塊の世代がトップに張り付き、文系の考え方を捨てきれていないように映る。「文系金融の終焉」。「老兵は消え去るのみ」である、残念ながら。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


書籍紹介

コラム一覧へ

ページの先頭へ戻る