コラム

コラム一覧へ

■今週の市場展望

著者:青柳孝直

9/26号

『特集:日銀の実験続く。もがく地銀』
  1. 9月21日、金融政策決定会合で日銀は、長期金利を政策運営上の目標とする新たな金融緩和の枠組みを導入することを決定した。マイナス金利政策を維持した上で、長期金利の指標となる10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導する。また物価上昇率が前年比2%を安定的に超えるまで金融緩和を続ける方針も示した。
  2. 異次元緩和の柱である国債購入を通じた資金供給量の拡大が、限界を超えないための軌道修正が必要だった。異次元緩和の導入で当初は円安・株高をもたらし、市場心理も好転し、物価上昇率をプラスに引き上げる原動力になった。ただ新規発行額の2倍超の国債を市場から買い上げる短期決戦型の政策では目標に届かず、緩和が長引くにつれ弊害の方が目立ち始めていた。
  3. 「いつか来る限界」について日銀内でも危機感あり、論議されていた結果の施策だった。だが新たに導入した長期金利の誘導目標設定作戦は、国債の購入量を減らしつつ、金利は低いままで誘導する“いいとこ取り”の政策には違いない。世界でも導入例がほとんどない。中央銀行が長期金利まで操作することは至難だからである。
  4. 「金融政策でコントロールできない外的な要因がなければ2%に達していただろう」と黒田東彦日銀総裁はいう。外的な要因として「原油価格の下落」「消費税増税後の消費停滞」「新興国経済の減速」「金融市場の不安定化」を上げる。従来の経済学の常套手段ある“所与のもの”以外の要因で目標が達成できなかった、と(言い訳)する。
  5. こうした“騒動”が起きるための伏線はあった。9月15日、金融庁が「金融レポート」を発表する。同レポートは昨年9月の公表した金融行政方針の進捗状況や実績を評価するもので、日銀のマイナス金利政策には直接言及してはいないものの、日銀の“爆買い”に伴って市場に出回る国債が減少しているため「金利が突然変動する」リスクや、低金利の長期化で「金融機関の収益を圧迫する」リスクに言及している。
  6. そして約10年後、人口減少や低金利で地方銀行の6割超が本業の貸出業務で赤字に陥るとの試算も示した。仮に日銀がマイナス金利を深堀りすれば東京銀行間取引金利(TIBOR)も水面下に沈む可能性がある。要は今まで融資で利息を得ていた銀行が、逆に利息を企業に支払う形になる。劇画の世界に映るが、それが現実である。
  7. 金融レポートが発表された翌16日、株式市場で地方銀行株相次いで上昇した。現状で地銀は利益を確保しているが、新規の貸し出し先は不動産関連中心であるとし、長期的な収益悪化で「業界再編成の期待」が強くなると見方である。このニュースを聞いて苦笑いするしかなかった。世の中は「地銀が存在しない世界」を前提に動いている…
  8. 金融市場は人間が介在して成り立つ。故に、経済原論通りには動かない。学者肌の日銀幹部の方々は、「生きた市場とはいかなるものか」を考えておられないように映るが…
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


書籍紹介

コラム一覧へ

ページの先頭へ戻る