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■今週の市場展望

著者:青柳孝直

6/27号

『特集:人間の限界を超える数字の世界』
  1. プロスポーツの世界は“見せる”ことによって報酬を得る世界である。球技であれ、格闘技であれ、“プロとして見せる”には、大きく分けて二つの種類があると思う。「強烈な記憶に残るプレーをする」か「人間技ではない数字を残す」か。
  2. イチローこと鈴木一朗の日米通算安打記録4257本は、少なくとも常識では考えられない数字である。単純計算で20年×200本=4000本。日本と米国では試合数が違うが、米国式160試合をベースに、年間150試合に出場したとして、2試合に3本(=1試合に1.5本)のヒットを打たないと200本レベルに到達しない。バッティングセンターのような人工的・機械的な球ではなく、“プロの生きた球”をである。
  3. ご存じのように、日本には名球会という組織がある。最近では250セーブを超えた者もその資格を得れることになったが、基本的には2000本安打以上、200勝以上を上げた者が「スーパースターの称号」を得られることになっている。これは20年×100本、20年×10勝が基本となっている。イチローは「従来の日本のスーパースターの2倍超」を成し遂げたことになる。
  4. 自分の本音を言えば、イチロー型の選手は余り好きではない。「コツンと当てて全力疾走で逃げる」ような世界は、“こすっからく”見えるからである。55番・ゴジラ松井の2009年のワールドシリーズでの“神がかり”の狂ったような爆発的な打撃や、ミスターこと長嶋茂雄さんの“ここぞ”という大事な場面の絶対的な勝負強さがプロだと思う。生涯忘れないような「記憶に残る」プレーをするのがプロだと思うのである。
  5. だが、ピート・ローズの持つ安打世界記録・4256本を破ったイチローは、もはや「人間の限界を超えた鉄人」である。確かに日米野球は似て非なるものだ。試合数や使用球、投球の平均速度や中継ぎのレベルも違う。そして最大の相違点は、日本の投手はなるべくストライクを投げずに打者をかわそうとするが、メジャーではストライクを投げ打者と力比べしようとする。野球とベースボールは別種の競技と言われる所以である。
  6. 異なる野球への対応に苦労するのはお互い様で、現役大リーガーが来日して、日本ではサッパリということも少なくない。竹刀をサーベルに持ち替えるような異境に移ってもなお、イチローはイチローであり続けてきた。その適応力は世界一というに相応しい。
  7. 米国では「ローズ超えの世界一」とは言いたくないらしい。当たり前と言えば当たり前ではある。新記録4257安打の先へ行こうとするイチローを見つつ、王貞治・868本の本塁打と同様に、何らかの言い訳をしないと“本家のメンツ”が保てないからである。
  8. 尋常ではない執念を込めた1万4千打席余り。圧倒的な「量=結果」としての安打数は、日米の通算記録だとしても単純に驚嘆すべきものである。「長嶋茂雄+松井秀喜」の国民栄誉賞に勝るとも劣らない「国民栄誉賞」を受賞してしかるべき快挙と思う。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


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