コラム

コラム一覧へ

■今週の市場展望

著者:青柳孝直

12/03号

『特集:アベノミクスは機能するか』
  1. 2007年、小泉政権の構造改革に伴う景気回復と株高を引き継いだ(前回の)安倍政権に、市場はABE(アセット・バブル・エコノミー)を期待した。“美しい国”を標榜する首相の名字をあてた、(無理矢理の)こじつけではあった。
  2. だが、07年の参院選で自民党は大敗、安倍首相はほどなく辞任した。引き際の安倍首相の一連のスタンスは、今や“伝説”になった。参院選直前の日経平均株価は18,000円。現在はその半分の9,000円前後で動いている。衆参ねじれ国会の影響が残り、“美しく”あるべき日本の政治と経済の停滞が続いている。
  3. それから約5年余り、自民党総裁に返り咲いた安倍晋三元首相は、今回の衆院選で再チャレンジを試みている。更なる金融緩和を看板にした選挙公約は「日銀に3%の消費者物価上昇の達成を求める」「それまでに無制限に金融を緩和」「目標を達成できなければ日銀法の改正を求める」。要は「ABE(アベ)ノミクス」の再チャレンジである。
  4. こうした大胆な金融緩和策が矢継ぎ早に飛び出す中で、円安・株高の流れになっている。しかし今の段階で市場は自民党に信認を与えたと言えるのだろうか。株式市場に関して言えば、衆院解散直後の株高が続く保証はない。
  5. もはや崩壊状態の民主党も、2009年の衆院選で政権を奪取する過程では株式市場の評価が高かった。当時の麻生太郎首相が衆院解散を宣言した09年7月13日から8月30日の衆院選までに日経平均は16%も上昇した。
  6. 株式市場は「変化そのもの」を肯定的に捉える習性がある。野田佳彦首相が衆院解散を明言した11月14日から、日経平均は約8%の上昇となっている。そして円安・ドル高が進み(と言っても2円ほどだが)、株価の押し上げ要因になっている。
  7. ただ今回の円安・ドル高も“投機的な動き”との見方が大勢。であれば、今回の株高も“投機的な動き”の範疇を出ていないことになる。であれば衆院選の12月16日が近くなるにつれ、一連の流れが収束する可能性も考慮しなければならない。
  8. 自民党の公約では「市場拡大が見込める分野への集中支援」「国際的に説明できない制度的障害の3年以内の撤廃」「国際標準に合わせた法人税減税」を謳う。果たしてこうした公約が実現できるか否か。今回の安倍発言は、閉塞を破るショック療法か、はたまた財政と金融への信任喪失への引き金か。
  9. いずれにしても今回の選挙、民主党の大敗は読めても、自民党が絶対多数をとる保証はない。現実的には自公民の連立政権が“落としどころ”になるとは思われるが、第三極の動きも曖昧過ぎて不気味で、結果が見えてこない。「美しい国」を標榜して、結局は敵前逃亡した安倍自民党総裁に日本を任せていいのだろうか。アベノミクスって何だろう。選挙に勝たんがための小手先の手段のようにも見えるが、さて・・・。
青柳 孝直
(あおやぎ・たかなお)
【略歴】
国際金融アナリスト
1948年 富山県生まれ。
1971年 早稲田大学卒業。
世界の金融最前線で活躍。日本におけるギャン理論研究の第一人者との定評を得ている。
著書は、『新版 ギャン理論』『日本国倒産』など多数。翻訳書としては、『世界一わかりやすいプロのように投資する講座』など。

連絡先:
株式会社 青柳孝直事務所
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-7-603
TEL:03-5573-4858
FAX:03-5573-4857


書籍紹介

コラム一覧へ

ページの先頭へ戻る